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「わがシッドの歌」はスペイン語初心者にはオススメしない

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おはようございます!

スペイン語と日本語の現役プロ通訳、タクミです。

 

今回は、スペイン中世の叙事詩「わがシッドの歌」という作品のレビューです。

読み始めるまえにプロローグから、いくつか役立つ表現を紹介しました。

 

過去記事:シッド

 

結論から言うと...

タイトル通りですが「わがシッドの歌」はスペイン語初心者にはオススメしません。

初心者じゃ、ゼッタイ読めない。

 

今のスペイン語とは語順が違う時点でキツイです。

スペイン語の文章の組み立て方を理解していない人が読むのはムリです。

 

中級でも苦しいですよ...この文章は。

文章を読むのがキライな人だと、ネイティブでも読むのがキツイはず。

 

私はスペイン語の文章をかなり読む方です。

そして、ほとんど辞書は使わなくていい。

 

ただ、知っている単語の数の問題じゃなかったです。

上でも言いましたが、文章の構造が今のスペイン語と違うんです。

 

「動詞が来て欲しいところで、動詞が来ない」

 

みたいなのがいっぱいあるせいか、なんか調子狂います。

右足を踏み出すときに、右手も一緒に前に降り出す感じです。

 

現代スペイン語としては実用性ゼロ

話し言葉から書き言葉まで、今の時代のスペイン語しては実用性が「完全にゼロ」です。

これが私としては、一番残念なポイントでした。

 

格調高い響きのスペイン語が出て来て、参考になるかな〜と期待してました。

見事に裏切られましたね 笑

 

当時のスペイン語を今のスペイン語に訳しただけです。

今のスペイン語に訳す上で、響きを良くしようとかいう色気は全くないですね。

 

左が原文、右が現代スペイン語という構成

この本の構成は、左がシッドの原文、右が現代スペイン語訳になっています。

 

左ページ(原文)

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右ページ(現代語訳)

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原文と現代語を見比べながら、その差を楽しめる構成になっています。

 

しかし…原文を見たけど、ほとんど理解できない。

1ページ目の1/3で諦めて、右ページの現代スペイン語訳だけ読みました。

 

さすがに疲れて途中で中休みしながら、2時間くらいかけて読みました。

およそ50ページくらいでした。

 

スペイン語も12世紀から相当変わっている

読んでみて分かったのですが、スペイン語は12世紀から相当変わってます。

 

・単語が違う

・語順が違う

・動詞のつかい方が違う

・前置詞が違うetc...

 

違いを細かくリストアップはしていません。

ただ、これらが変化するだけで、現代人には相当読みづらくなってます。

 

上の写真を余裕があれば比べてみてください。

全く違うのがわかると思います。

 

昔の日本語が読みづらいのと同じ

古典って、どんな言語でも読みづらいものなんだな〜と感じました。

日本語でも、昔の文章って読みづらいですよね。

 

大学の頃だったと思うんですが、小林多喜二の「蟹工船」を中古で手に取りました。

非常に読みづらかった記憶があります。

 

川端康成の「伊豆の踊り子」にも原文でトライしたことがあります。

でも、見たことない漢字が多すぎて途中で断念しました。

 

(自分が大学生の頃、「日本人だから日本の事知ってないと海外に出たときに恥ずかしい」という事を周りが言っているのをかなり過剰に意識していました。)

 

高校時代、古典の授業好きだったんです。

そして、成績もそれなりによかったです。

 

でも、古典の日本語って、もはや外国語です。

「外国語と思って勉強してください」と古典の担任が何度も言っていました。

 

今日、シッドの第1部を読んでいて、古典の担任を思い出しましたね。

古典は辞書ないと読めないけど、シッドはまだ辞書なしで話が分かったのは楽でした。

 

源氏物語でさえ、原文で読むようなヘンタイはなかなかいないハズです。

ほとんどが、マンガ、現代語訳、映画とかでしょう。

 

登場人物の感情描写が少ない

シッドを含めた主要なキャラの感情表現はされています。

でも、内なる感情の描写があんまりない。

 

・王に追放された

・妻娘と離れ離れになった

・アツい仲間に支えられた

 

こういうシーンがあって

 

・「涙を流した」

・「抱きしめた」

・「手にキスをした」

 

とか書いてあります。

 

どれも感情を表す行動ではあるんです。

でも、なんかアッサリしてるんですよね~。

 

ふつう文字だけだと、絵よりも想像が膨らむはずなんですが…

なんか、「事実を客観的に見ているだけ」という感じで感情が揺さぶられないです。

 

原文にはもしかしたら、このあたりの感情描写がもっとあったのかもしれないです。

私が買ったバーションが、短く省略したバージョンだったのかもしれません。

 

「キリスト教徒 vs イスラム教徒」のイメージが覆された

シッドが書かれた時代は、スペインのキリスト教徒がイスラム教徒から領土を取り戻す戦いが繰り広げられていた時代(「レコンキスタ」)というように、中、高、大の歴史で習いました。

 

ただ、シッドを読んでみて、「キリスト教徒 vs イスラム教徒」みたいに完全に敵同士というようには分けられなかったんじゃないか?と感じました。

 

キリスト教の勢力圏にシッドが攻め入った際、攻め入られた側の領主はモーロ人(イスラム教徒)を、自国領を守るための兵士として使っているシーンがあります。

 

また、キリスト教徒の村とイスラム教徒の村が隣接しているシーンもあります。

特に、イスラム教徒がキリスト教徒を虐げているような感じの描写はない。

 

 

このページにも書いてありますが、キリスト教勢力圏に住むイスラム教徒たちは、その地域を統治する王やその法律の支配下にあったようです。

 

また、多くのイスラム教徒たちはキリスト教に改宗していたという話もあります。

となると、必ずしも

 

「レコンキスタ」

=領土を奪われ虐げられていたキリスト教徒たちがいた

=そのキリスト教徒たちがイスラム教徒にリベンジをした

=そして自分たちの領土を取り戻した

 

という私が抱いていたイメージは史実と合っていないようです。

 

キリスト教徒とイスラム教徒が共生していた地域も中にはあった。

そんな地域には、異教徒同士のシンプルな対立の構図はなかったのかもしれないです。

 

中世文学の世界観で観光促進

シッドが通った道は世界遺産になっています。

その世界遺産が、車、自転車、ハイクできるルートになっています。

 

このページが「シッドの道」の特設サイトです。

 

商業的に成功しているかは知りません。

でも、ストーリーとして中世の世界観を売りにしているのがすごく好印象です。

 

中世に思いを馳せながら、スペインの風景をめぐる旅。

 

・スペインという空間

・中世から現代にいたる時空のながれ

 

こんな大きな枠組の中に、旅人を舞い降りるかのような気持ちにさせてくれる売り込み方です。

 

アメリカの国立公園にあるような壮大な景観は、それだけで楽しめます。

それ自体が否応無しにスゴイから。

 

でも、地味な歴史遺産って結構ありますよね。

そんな遺産の価値って、やっぱり歴史のコンテクストを旅人に教えないと、その良さってわかってもらえないと思います。

 

ストーリー性って、やっぱり何かを売り込む場合には大事だと思いました。

世界に数ある場所の中で、なぜわざわざそこに行かないといけないのか?

 

その動機づけには、人々を魅了するようなストーリーがないといけないです。

自営業者にとっては、とても参考になる世界観の打ち出し方です。

 

領土の広がりとかを地図で示して欲しかった

私、シンフォグラフィーを使った視覚的な説明が大好きなんです。

文章による説明よりも、視覚的に図やイメージで説明して欲しい。

 

第1部では、シッドが征服する場所の地名が出てくるんですが、空間的に位置が把握できないのが焦れったくて仕方ない。

 

もし、スペインの地図+スペイン国内の勢力分布図みたいなのがあれば、大きなフレームワークの中でシッドの動きがどんな風に状況を変化させて行ったのかが理解しやすくなるのに...

 

第1部で出て来た戦いとして、

 

・アルコセールの戦い

・カステホンの戦い

・テーバル峠の戦い

 

と複数あるわけです。

 

でも、その戦いの意義がよく分からない。

「ただ単に戦っただけなの?」と疑問が残っています。

 

戦いに軍事的な意義はなかった。

自分を追放した王に対する忠義を示すために、とりあえず戦っただけかもしれないです。

 

登場人物の紹介ページが欲しかった

登場人物の中には、聞きなれない名前も結構出てくる。

読み終わったばかりなのに、シッド以外の名前は思い出せない...

 

だから、

 

・名前は何で

・どこの誰で

・誰の味方なのか

 

みたいな簡単な説明書きがあるといいなと思いました。

 

コロンビアのノーベル文学賞作家、ガルシア・マルケスの「百年の孤独」には、そういう人物紹介つきのエディションが結構あります。 

百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)

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  • 作者: ガブリエルガルシア=マルケス,Gabriel Garc´ia M´arquez,鼓直
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まとめ

この記事があなたの参考になればうれしいです。

 

もっとスペイン語が上手になりたい。

 

キューバに住み込みでダンス修行がしたい。

 

以上、スペイン語と日本語の現役プロ通訳、タクミでした。